時間よ止まれ」 僕がそう呟くと、君は笑った。 夜の公園には誰もいなかった。 古びたジャングルジムだけが、街灯の淡い光を受けて、まるで昔のままそこにいた。 僕たちはその下に並んで寝転んだ。 「そう、僕の横に横たわる。地面の冷たさに身を預けてさ、満天の星の瞬きを堪能するんだ」 君は何も言わなかった。 ただ、僕の横で空を見上げていた。 星は、昔と同じように瞬いていた。 いや、昔よりずっと遠くに見えた。 「忘れな。あれもこれもみんな夢さ」 君がそう言った。 僕は笑った。 けれど、その言葉が誰のためのものなのか、分からなかった。 ふと、ジャングルジムの下の土を見つめる。 「覚えているかい?」 君がこちらを向いた。 「このジャングルジムの下に君は、ちびたエンピツとケシゴム、それからぼくの名札とハンケチを、埋めた」 「ああ……」 君は小さく頷いた。 「宝物だったね」 「そう。僕たちには、あれが宝物だった」 僕たちは小学生だった。 明日になれば、また学校がある。 給食があって、掃除があって、先生に叱られて、放課後にはこの公園へ走ってくる。 明日が永遠に続くと思っていた。 だから、僕たちは土の中に未来を埋めた。 ちびたエンピツ。 消しゴム。 僕の名札。 そして、君のハンカチ。 「大人になったら掘り出そう」 そう約束した。 けれど、僕たちは大人になり、いつしか離れ離れになった。 そして今日、何十年ぶりかに、この場所で再会した。 君は昔と同じ顔で笑っている。 不思議なことに、皺も白髪もなかった。 「ねえ」 君が言った。 「掘り出さなくてもいいんじゃない?」 「どうして?」 「だって、あれはもう、僕たちの中にあるもの」 そう言って、君は目を閉じた。 僕も目を閉じた。 すると、遠くから子供たちの声が聞こえてきた。 ランドセルを背負った僕たちが、この公園へ走ってくる。 笑い声。 靴音。 「早く来いよ!」 昔の僕が叫んでいる。 昔の君が振り返る。 そして二人は、ジャングルジムの下へ潜り込む。 土を掘っている。 僕は目を開けた。 隣には誰もいなかった。 ただ、冷たい地面と、満天の星。 そしてジャングルジムの下に、小さな土の盛り上がりがあった。 僕はそこへ手を伸ばした。 けれど、掘るのをやめた。 「時間よ止まれ」 もう一度、僕は呟いた。 今度は星が答えたように、一つ、また一つと瞬いた。 あの日の僕たちが埋めたものは、きっとまだ土の中にある。 でも、掘り出さなくていい。 あれもこれも、みんな夢。 夢だからこそ、いつまでも消えない。 僕は地面に横たわった。 そして、もう一度だけ、隣に君がいるつもりで空を見上げた。 時間は止まらなかった。 けれど、その一瞬だけは、 僕たちは確かに、あの日の少年と少女だった。