歌が聞こえる。 どこからともなく、古いオルゴールのような歌声が流れてきて、僕らは回転木馬の馬となって、ぐるぐる回っている。 白い馬も、青い馬も、金色の馬もいる。 僕らは何も言わない。 ただ、時々いななき、天を仰ぐ。 すると、そこから確かに何かが落ちてくる。 星だったのかもしれない。 遠い日の記憶だったのかもしれない。 僕は昔、遊園地のビックリハウスに、ずいぶん妄想した気がする。 天と地とが逆さまになって、僕たちは壁を歩いている。 窓の外には、逆さまの街が見える。 空には家が建っていて、道路には雲が流れている。 そのままエポックに入り込んで、二度と人間界には戻れない。 そんなことになったらどうしよう。 でも、そこで僕らは何不自由なく暮らしていたりして、今までの自分に気づくこともなく、朝になれば朝の鐘を聞き、夜になれば月を眺めている。 そんな世界も、案外悪くない。 子供の頃の僕は、本気でそう思っていた。 そして今、僕はその遊園地の跡地に立っている。 もちろん、もう回転木馬はない。 ビックリハウスもない。 けれど、古びた柵の向こうから、あの歌が聞こえる。 僕は少しだけ笑った。 「まだ、あったんだ」 すると、暗闇の中で誰かが答えた。 「ずっと、ここにあったよ」 振り返ると、そこには一軒の家が建っていた。 見覚えのない家だった。 扉には小さな札が掛かっている。 MAGIC HOUSE 僕はノブに手をかけた。 その瞬間、遠くで馬がいなないた。 そして、空と地面が、ゆっくりと入れ替わった。 僕はもう、どちらが上なのか分からなくなっていた。 ただ、歌だけが聞こえていた。 懐かしい歌だった。 もしかすると―― あの頃の僕が、ずっとここで待っていたのかもしれない。