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五月晴れとも云うべき日で、運動会や結婚式の号砲が鳴っている。
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小高い丘に上り、町々を見下ろしている。口笛を吹きながら少しやんちゃを気取って、君に呆れられた。
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魔法の町、公民館開設
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特別な日

五月晴れという言葉が、こんなにも似合う日はない。

空はどこまでも青く、雲は遠慮がちに白い。
どこかで運動会を知らせる号砲が鳴った。
少し遅れて、別の方角からも音がする。

結婚式だろうか。

今日は、町のあちこちで何かが始まろうとしている。
そんな気がした。

僕は小高い丘に上り、町を見下ろしていた。

隣には君がいる。

僕は少しばかり、やんちゃな少年の真似をして、口笛を吹いた。

「ふうーっ」

得意になって吹いたつもりだったのに、音は途中でひっくり返った。

君が呆れた顔をする。

「子どもみたい」

「いいじゃないか。今日は特別な日なんだから」

そう言って、また口笛を吹いた。

丘の下には、家々が隙間なく並んでいる。
道路が縦横に走り、車が小さく行き交っている。

けれど僕には、その景色の向こうに、もうひとつの町が見えていた。

ずっと昔の町だ。

僕は、おばあちゃんに手を引かれて、田園へ続く坂道を下りていた。

あの頃、この辺りには家などほとんどなかった。

小川が流れていた。
大小の池が、ところどころにあった。
風が吹くと、稲穂が一斉に頭を揺らした。

水面には空が映り、夕方になると、そこへ赤い雲が浮かんだ。

東京ドーム数十個分ともいう広い土地が、まるで夢でも見るように、瞬く間に開発されていった。

田んぼが消え、
池が消え、
小川が消えた。

そして家が建った。

一軒、また一軒。

気がつけば、以前の面影はどこにもない。

「おばあちゃん、あの池は?」

幼い僕が尋ねると、おばあちゃんは少しだけ黙っていた。

「なくなっちゃったねえ」

それだけだった。

坂道を下りたところで、僕は少女に出会った。

白いワンピースを着ていた。

手には、小さな赤い花を持っていた。

「どこから来たの?」

少女が聞いた。

「丘の上」

「じゃあ、一緒に行こう」

どこへ行くのかも知らないのに、僕は少女について歩いた。

小川のほとりまで来ると、少女はしゃがみ込んだ。

水の中に、小さな魚がいた。

「見て」

僕も覗き込んだ。

魚は光の中をすばやく走り、二人の顔を水面に映した。

あの日、僕は少女の名前を聞かなかった。

少女も僕の名前を聞かなかった。

それなのに、不思議なことに、僕は今でも彼女のことを覚えている。

あれから何十年も経った。

小川も池も、田んぼもなくなった。

少女が立っていた場所には、今では大きな道路が走っている。

僕は丘の上で、もう一度、町を見下ろした。

隣で君が言った。

「何を見てるの?」

「昔の町」

「どこにあるの?」

僕は答えなかった。

そのとき、遠くでまた号砲が鳴った。

運動会なのか、結婚式なのか、それとも誰かの新しい人生の始まりなのか。

青空に音だけが広がっていく。

僕は口笛を吹いた。

今度は、ちゃんと鳴った。

君が笑った。

「やっぱり子どもみたい」

「そうかな」

僕も笑った。

そして、ふと思った。

もしかすると、あの日の少女も、この空の下のどこかで大人になったのだろうか。

あるいは、あの田園の記憶だけを残して、どこかへ消えてしまったのだろうか。

わからない。

ただ、五月晴れの空を見上げていると、あの日の少女が、今も小川の向こうからこちらを見ているような気がする。

赤い花を持って。

そして、あの日と同じ声で言うのだ。

――一緒に行こう。

僕は丘の上で、君の手を取った。

町はすっかり変わってしまったけれど、

今日という日は、

あの日の続きを始めるには、

ちょうどいい。

特別な日だった。

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