HOMEおまじない魔法の町愛せよ乙女光の観覧車魔法仕立て

淡い忘却

忘れたことを、忘れてしまった。

そんな朝だった。

窓の外は、薄い水色をしていた。

何かを思い出しそうで、けれど思い出せない。

名前だったのか。
場所だったのか。
それとも、誰かの笑顔だったのか。

私はしばらく窓辺に立っていた。

テーブルの上には、飲みかけのコーヒー。

読みかけの本。

そして、古い写真が一枚。

写真の中では、若い私が笑っている。

隣には、誰かがいる。

でも、その人の顔だけが、淡い光に溶けていた。

不思議なことに、悲しくはなかった。

むしろ、少し嬉しかった。

忘れるということは、
消えてしまうことではないのかもしれない。

記憶の奥で、
形を変えて眠っているだけなのだ。

私は写真を本の間にそっとしまった。

「またいつかね」

誰に言ったのか、自分でもわからない。

そのとき、白い猫のミャオが足元を通り過ぎた。

振り返ると、尻尾だけが見えた。

私は微笑んだ。

忘れてしまったものは、
無理に探さなくてもいい。

忘却にも、
きっと優しい魔法がある。

大切だったものを、
少しずつ淡くして、

それでも心のどこかに、
消えない微笑みだけを残してくれる。

窓から風が入ってきた。

カーテンが揺れた。

そして私は、何かを思い出したような気がした。

けれど――

それが何だったのかは、
もう思い出さなくてもよかった。

ファミレスで素麵にはしゃいで

Posted on November 22th, 2007 by Guest

ファミレスの窓の外では、夏の星座がひとつずつ灯り始めていた。

「見て、これ!」

君が運んできたのは、素麵の上にバナナ、アイスクリーム、チェリー、それからチョコレートまで乗った、世にも奇妙な銀河料理だった。

白い麺は星雲のように皿の上で渦を巻き、溶けかけたアイスが、遠い惑星の氷河みたいに流れている。

「いったい誰が考えたんだろうね」

僕が笑うと、君はチェリーをひとつ摘まんで、素麵の真ん中に置いた。

「きっと宇宙人。地球の夏を研究しているのよ」

僕たちは箸を持ち、恐る恐る麺をすくった。甘いのか、しょっぱいのか、冷たいのか。口の中では、夏祭りと天の川と、子供のころの夢が一緒くたになっていた。

君は突然、アイスの溶けた汁をストローで吸って、吹き出した。

「宇宙って、案外おいしいのね」

窓の向こうで、星がひとつ流れた。

僕たちは、まだ食べ終わらない素麵を前に、いつまでもはしゃいでいた。

© Mahou.Tk 2010